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U-NIGHTed 727

93 涙がこぼれることはありませんでした。涙すら流れることはなかったといったほうがいいのかもしれません。最近、観た映画の前に流れる予告を何度も見て、そのたびに涙していたにもかかわらず、実際に映画を観る段になって涙は流れ出る幕はなかったようです。それほどまでに現実に起きた出来事を目の当たりにすると固唾を呑むこと以外に身の処しようがないといえます。

 7月27日、映画『ユナイテッド93』の試写会に出かけました。「仕事の関係で、試写会を観ることができるよ」と奥様()に誘われ、観たいような、観たくないような複雑な気持ちのまま、申し出を受けていました。会場は機内を思わせるコンパクトなところでした。この“機内”は、B列やI列がない飛行機とはまた違って、窓がなく、中央に10席ほどが隙間なく並べられ、その両脇に通路があるつくりになっていました。そもそもホールとはそういうものであるし、小さければ、席と席の間に通路を設ける必要もないというものです。“ない”ものつながりで話を進めれば、新作映画の予告もなく、定刻を告げ、「それでは上映いたします」の声とともに映像が映し出されていきました。

 話題になった般若心経などが読経される声を聴くことは心地よさにつながることもありますが、この映画の場合、最初に響き渡ってくるコーランを読みあげる声には背筋が寒くなる思いがするとともに、筋違いな憤りをも感じることになりました。何もイスラム教が悪いわけではないのですから。その声の主はテロの実行犯たちです。9月11日、空港へ向かう前に準備を整えつつ、神に祈りを捧げているのです。神とは何でしょう? もしも存在するならば…。あの事件が起きたことからするならば、神などどこにもいるはずがありません。

 空港の様子はいつもと変わらない一日が流れていくだけのはずでした。ところが異変が生じ始めます。やがて世界貿易センターに突入していくことになるアメリカン航空11便が管制塔との通信をもとうとしません。ハイジャックの可能性を示唆する情報が入ってきます。各種情報が飛び交い、分析に回されます。どうやら複数の飛行機がハイジャックされているとの情報がもたらされます。次第に情報は思うように入ってこなかったり、思うように伝わらなかったりして、空港、軍、政府を混乱の渦に巻き込んでいきます。そうこうするうちビルに飛行機が衝突したとの一報が入ってきます。CNNが流す映像が生々しく映し出されていきます。空港の窓から臨む摩天楼では煙を上げる世界貿易センターが悲鳴をあげています。一方、対策に追われる管制塔や軍司令部には重苦しい沈黙と静寂が流れます。想像も及ばない悲劇が起こったのです。

 「行動を起こせ!」-事態を収拾するために情報収集と苦渋の選択を伴う対策が模索されていきます。しかし、世界の警察を豪語する、さしものアメリカも混乱の一途を辿り、為すすべなく最悪の事態へと進む時を押しとどめることはできませんでした。南塔への飛行機衝突、ペンタゴンの爆発崩壊、そしてユナイテッド93便。乗客たちも起き続けている悲劇を知ることになります。(このままでは自分たちも同じ運命を辿ることになる)-屈強な乗客たちは勇気を奮い、ハイジャック犯に反撃を試みることにします。他の乗客たちは電話を使い、地上にいる家族へとメッセージを残していきます。「ありがとう」「愛している」「さようなら」。遂には93便にも悲劇が訪れます。

 その映像のリアルさと臨場感で迫ってくる悲劇は息を潜めて、ただただ見つめているしかありませんでした。本当のことをいえば、実際に93便の中で何が起きていたのかは知る術もありません。にもかかわらず真に迫って訴えかけてくる映像の源は、事件当日、現場にいた本人が同じ役で出演していたり、遺族や関係者からもたらされた情報と事実を丁寧に積み上げて、この映画がつくられているところにあるのです。どうすることもできないまま事態は先へと進みつづけていきます。わずかにしか希望が残されていない中、家族にメッセージを残していくシーンでは感極まるものがありましたが、不思議と涙はこぼれませんでした。圧倒されていて、感情が表に出すことができなくなってしまったようでした。身体がひと回り小さくしぼんで、身を固く閉じていました。重苦しい気持ちだけが身体の中を駆け巡っていました。なぜあのようなことが起きたのでしょうか? 誰が起こしたのでしょうか? この映画を観て、涙を流す人もいるでしょうが、さほどその数は多くないのではないでしょうか。涙を流すことなく、その前に圧倒されてしまうでしょう。ハンカチは必要ありません。もしも皆さんがこの映画を観ようとするならば、受けとめる覚悟は必要です。公開は2006年8月12日。あなた()と悲劇を共にした27日の夜(NIGHTでした911giwaku

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