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いくつもの風景が折り重なり

「結婚してから生活が色つきになった、と思う。なにもかもがいきなり色つきになり、それはとてもたのしいことであった半面、同時にまた少々落ち着かないことでもあった。…(略)…
 誰かと生活を共有するときのディテイル、そのわずらわしさ、その豊さ。一人が二人になることで、全然ちがう目で世界をみられるということ。」

 江國さんが言うように、私たち二人の生活が色つきになったかどうかはわからない。間違いなく楽しくなったし、落ち着かないことも間違いなく起きるようになった。何かで読んだのだと思う、結婚はいろいろなしがらみをも含めて受け入れ、暮らしていくものだと。確かにそうなんだろう。好き嫌いを言っている場合ではないのだが、そうしたものにはあまり積極的には臨むことはないだろう。私はこれまでとても狭い世界に住んできた。結婚することで、独りの世界が二人になった。とりたてての意味はないが、文字通り、“二人”の世界で過ごせたらいいなと思っている。これまで一つずつの世界だった二人が一つの世界になり、そこから二人の目で世界を見つめていく。そのシンプルさを求めたい(そうはなかなかいくまいが…)。私は私の世界の外にそれほど多くのことを望まない。心地よく過ごせるだけのわずかなものがあればいい。唯一、欠かせないものは一緒に暮らしている彼女だ。彼女がいなくなったらきっとものすごく悲しいだろう。紺色の世界に、ワインレッドが加わった感じだ。そういう意味では色の数は増えたかな。でも、この二色は混ぜないほうがいいな。それこそものすごい色になりそうだから。個々固有の色(カラー)をいろんな場面で奏でていけばいいのだと思う。

「私たちはあのころ別々の場所にいたけれど、いつも会ってはおなじ風景をみた。別々の場所にいたからこそ、と言ってもいいと思う。いま私たちはおなじ場所にいて、たいていちがう風景をみている。…(略)…
 世界はいつも見事に多重構造だ。私たちの小さなマンションのなかにさえも、いくつもの風景が折り重なり、いくつもの時間が流れている。」

 結局のところ、世界はいつでも多重構造なのだろう。私たちの世界と他の世界、私たちの世界の中の、少なくても二重構造(=ふたり)、私たちそれぞれの、心の多重・多元的構造。どうしたって一筋縄ではいかないようだ。わずらわしさやしがらみといったこと以上に凌駕するものが存在するのだと思う。時には嫌気がさしてしまうかもしれない。諦めたくなるかもしれない。くじけそうになるかもしれない。それでもそれらと相対していくことが必要なのだと思う。その世界の中で、あがき、もがき、取っ組み合って、奮闘する。そこに見えてくるものがあるかもしれない。何かをつかもうと一生懸命に努力していくなかできっと何かがつかめるはずだ。苦労するだろうけれど、どうにかやっていく、何とか頑張っていくことが肝心なのだろう。こだわりと淡白の二重構造の私にやっていけるだろうか? 無性に逃げ出したくなるときだって、本当にある。いや、それでもやっていかないといけないのだ。生を受け、生きてきて、これからも生きていく限りにおいては。そして、結婚して、二人、暮らし、過ごしていくには…。結婚はstruggle。

struggle 【プログレッシブ英和中辞典 第3版 小学館 1980,1987,1998】
1 もがく,あがく;(…と)取っ組み合う;(…しようと)争う,戦う
2 (…しようと)一生けんめい努力する,奮闘する
3 (…を)苦労して進む;(苦労して)どうにかやっていく,なんとか頑張る

                         (江國香織『いくつもの週末』を読んで④)
 

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